建物解像の高精度津波予測
概要
従来の津波解析は、比較的単純化された地形やモデルを用いて、浸水域の大まかな範囲を予測することが主でした。しかし、東日本大震災などの経験から、より現実に即した被害を予測するためには、はるかに高精度な解析が必要であることが明らかになりました。具体的には、以下のような目的を達成するために、シミュレーション技術の向上が求められています。
・複雑な地形と構造物の影響の再現:津波は単に水位が上がるだけでなく、沿岸の複雑な地形や、ビル・家屋といった無数の構造物の間を、激しい渦を伴いながら駆け巡ります。これらの構造物が流れにどう影響し、どこで想定外の破壊力が生まれるかを予測する必要があります。
・構造物への波力評価:防波堤や建物にどれほどの力が加わるのかを正確に計算し、より強靭な社会インフラの設計に役立てます。
・効果的な避難計画の策定:どこに、どれくらいの速さで、どれくらいの高さの津波が到達するのかをピンポイントで予測し、より安全で現実的な避難計画の立案に貢献します。
計算モデル
本計算モデルは、現実に行われた実験と、全く同じ縮尺で作成された3次元モデルを対象としています。
※ 参考文献
IAEE(International Association for Earthquake Enginneering) 国際地震工学会
第17回、WCEE(World Conference on Earthquake Engineering)世界地震工学会議
計算に使われる節点数が約355万、要素数が約342万となっています。水面付近のメッシュは上下方向に1cm、建物周りのメッシュは水平方向に2.5cmという高解像度の格子となっています。

対象実験の様子(https://sites.google.com/view/copy-of-wcee)

解析領域

建物近傍および初期水面位置
このモデルを用いて、2種類の浸水条件について解析が行われました 。Case Aは穏やかな浸水条件、Case Bは激しい浸水条件となっています。大規模なシミュレーションを実行するため、NECのベクトル型スーパーコンピュータSX-Aurora TSUBASAが1台(1VE)、8並列の構成で使用されました。
解析結果
以下はCase A(穏やかな浸水条件)での解析結果を示します。現実時間で約100[s]の水槽実験に相当するおよそ5万ステップの解析をおよそ1週間で実施できました。

上流水位の時間履歴(Case A)
以下はCase B(激しい浸水条件)での解析結果を示します。

上流水位の時間履歴(Case B)
建物解像の高精度津波予測(激しい浸水条件)と建物解像の高精度津波予測(穏やかな浸水条件)の解析結果を動画ファイルでアドバンスソフト株式会社の公式Youtubeよりご覧いただけます。
まとめ
建物を精度よく解像した津波解析を行い、現実に行われた実験と比較しました。
解析結果の動画では、津波が市街地へ進入した際、建物群の間を激しい渦や剥離流を伴いながら高速で駆け巡る様子や、道路網に沿って流体が一気に加速するチャネリング現象、および各建物にかかる局所的な流体力の非定常な変化が可視化されました。
Advance/FrontFlow/redを活用することで、このような複雑な流体・防災シミュレーションを実行し、ハザードマップ情報の構築や避難インフラ設計に役立てることができます。
Advance/FrontFlow/redは、NEC SX-Aurora TSUBASAのようなベクトル型計算機において、その性能を最大限に引き出し、高い計算効率を発揮します。性能を具体的に示す指標として、ベクトルエンジン1基(1VE)の計算速度は、一般的なIntel Xeon CPUを2基搭載したワークステーションと比較して2.2倍高速である、という結果が得られました。現在、ベクトル計算機だけでなく、今後のスーパーコンピュータで中心となる様々なプロセッサ(アーキテクチャ)への最適化を積極的に進めています。例としては、スーパーコンピュータ「富岳」に搭載されているプロセッサである「A64FX」やAIや科学技術計算で広く利用されているGPU(Graphics Processing Unit)などが挙げられます。その取り組みの一環として、AFFrを用いた課題が令和2年度の「富岳」試行的利用課題に採択されました(https://www.hpci-office.jp/pages/fugaku_prelim)。