キャビテーションは液体の流れの中の低圧力部分が短時間で蒸発気化し小さな気体領域が生じ、その後非常に短時間で崩壊・消滅する現象のことを言います。
キャビテーションには2つの側面があり、ポンプ、船舶のプロペラ、油圧機器などでは気泡が集合した気泡クラウド状態で存在し、振動、騒音、壊食(壊蝕、エロージョン)の様な機器への悪影響を与える負の側面と、逆に気泡の崩壊時の非常に大きい破壊力を用いてエロージョンを意図的に発生させることで、機器の洗浄、切断、はつり等へ利用されている正の側面とがあります。
正負いずれにおいても開発のできるだけ早い段階で機器の性能最大化を目指しつつトラブルを防止するトレードオフの解決策を検討する必要があります。
キャビテーションのマクロな発生予測と合わせて気泡の崩壊に関するミクロな予測技術及びキャビテーション現象に関する専門家を人材として有しています。そこで、この分野の課題をお持ちのお客さまに、専門家とシミュレーション技術の両方を保有する当社ならではの開発提案を行い、受託開発を進めています。
オリフィス出口におけるキャビテーション噴流解析
本事例では、流体機械の基本要素であるオリフィスを通過する液体の流れに着目し、噴流(ジェット)の変動と、それに伴うキャビテーション気泡群の発生・挙動をAdvance/FrontFlow/redにより解析しています。 これは、燃料噴射器や油圧制御弁などの設計において、流量制御やエロージョン対策を検討する上で大きな知見となります。
〇 解析の目的
解析対象の形状を図1に示します。 オリフィスを通過する液体が急激に加速し、圧力低下によって発生するキャビテーション気泡群の空間的な挙動および、気泡群に起因する噴流の不安定性や変動を非定常解析により把握することを目的としています。

このキャビテーション噴流解析の解析規模を表 1にまとめています。
表 1. 解析規模
| 項目 | 値 |
| 格子形状 | ヘキサメッシュ |
| 格子数 | 約70万 |
| 時間刻み | 2.0e-7(s) |
〇 解析条件
このキャビテーション噴流解析の解析条件を表 2にまとめています。
表2. キャビテーション噴流解析の解析条件
| 項目 | 値 |
| 支配方程式 | 非定常圧縮性NS方程式 |
| 乱流モデル | LES(標準スマゴリンスキーモデル) |
| 時間積分法 | Euler陰解法 |
| 物理モデル | キャビテーションモデル |
〇 解析結果
図2は解析結果で、流速、圧力、ボイド率を示します。

この結果項目と、結果の概要、得られる知見について、 表 3にまとめています。
表 3. 結果項目ごとの、結果概要と得られる知見まとめ
| 結果項目 | 結果概要 | 得られる知見 |
| 流速分布 | オリフィス出口で加速した噴流が、下流側で大きく広がっている様子がわかります。 | 噴流の到達距離や広がり角度など、流体の運動量分布を把握できます。 |
| 圧力分布 | 噴流の低圧域で気泡(ボイド)が集合し、下流側で圧力が回復する様子がわかります。 | キャビテーション発生箇所や、気泡崩壊に伴う圧力パルスの発生リスクを特定できます。 |
| ボイド率分布 | 噴流外縁に沿って、リング状や渦構造を伴う気泡クラウド(ボイド)が形成されていることがわかります。 | 気泡群の形状や挙動から、壊食(エロージョン)が発生しやすい箇所を予測することができます。 |
この解析結果の圧力分布について、動画ファイルでアドバンスソフト株式会社の公式Youtubeよりご覧いただけます。
この解析結果は、「キャビテーション噴流における気泡発生と噴流変動を再現」したものであり、オリフィス形状の最適化や、キャビテーションによる悪影響を抑制するための設計検討に役立てることができます。